認知拡張
86 認知拡張が拓く人間や世界のあり方 〜 VR研究者 鳴海拓志 インタビュー|雑誌『広告』
- by narumin
世界は、パラレルなリアリティの複合体である
── 最後に、認知拡張や認知バイアスの制御技術が発展していくと、人は世界をどう捉えるようになるのか、そしてどんな行動や生活様式が生まれるのか、お話を伺えますか。
鳴海:僕は「リアリティ」と「リアル」は違うものだと考えています。みんな「現実はひとつしかない」と思っていますが、実はひとつの状況をそれぞれの人が、それぞれの頭のなかでひとつずつつくっている。だから、「同じものを見ているのに全然捉え方が違っていた」ということが起こります。
つまり、“世界”というのはパラレルなリアリティの複合体でしかないのではないかと思うんです。「真実はいつもひとつ」というような世界観は、物理的な規定があって、それに従ったものが正しいという判断だと思うんですが、“バーチャル”には物理的な規定がありません。「何月何日何時のオンライン会議で、あのとき、あの人は本当に笑っていたのか」というのが本当かどうかわからなくなる世界がやってきたとき、「まぁ、でもなんか、お互い笑ってたよね」という認識が、個々人の“真実”とは別に“現実”となっていく。これとどう向き合っていくかということなんだと思います。
でも実際には、すでにそうなっていると思うんです。たとえば「お金」は、もともとあった「金」の価値から切り離されて、その価値は貨幣や紙幣でバーチャルに流通するようになりました。それがいまは、仮想通貨やデジタル決済に置き換わっていっています。これと同じように、われわれが勝手に信じ込んでいる「物理的な根拠」がリアルから切り離されて、「そんなもの本当はないよ」「たくさんのリアリティ、ひとつひとつすべてが真実だよね」となったとき、その“現実”とどうつき合っていくのか。いまも実際に、一人ひとりが「自分の見たい現実を、つくっている」ことは、もっと意識したほうがいいのではないか。そして、「それで構わないよね」とみんなが許容できるようになるには、どうすればいいか。すごく興味深いテーマだと思います。
- そうそう、相対的な現実の世界観も同じ様な話がしたい